なんちゃってファンタジー。中途半端






ざぱぁん。

打ち寄せる波音を聞き、誘われるように竹中さんの足が動く。
その唇が、言葉を紡ぐ。

「ここが…私の故郷か」

ふいに、流れが変わったことに僕は気づく。
その瑣末な変化をきっかけにして、自然を超えた大きな何かが変わってゆく兆しを感じる。

「竹中さん、」
支配された空気に言葉が止まり、それ以上は言えなかったけれど。
気のせいだろうか、先ほどとは明らかに場の雰囲気が違っている。
僕と、あっけにとられている太子はもとより―この場所に存在するすべての生物の運命、命の流れ、そして生死までもが―歪んで凝り、竹中さん一人に集約している。


ざっ。
竹中さんの足が力強く砂を掻いて波打ち際に立った。
前方に広がる大きな海と、翳む空と、それらををきっぱりと二分する水平線と。
それら全てを前にした竹中さんは、そこにあるなにもかもを受け止めていた。
そして、告げる。

「出来うる限り何も変えない。その力があったとしても。」


不意に、果てから鋭い潮風が、一陣。
それは僕の方に向かって。


ビュウゥッ。

「うわぁっ!」



最早突風。
避けきれずもろに直撃して、身体が後ろに弾き飛ばされた。
すぐ後ろの石壁に叩きつけられる衝撃が走る。

すぐには視界が定まらない。理解も追いつかない。
ぐらんぐらん揺れている世界に、今、何が起こっているのか。
「い、妹子。大丈夫か」
太子がやってきて助け起こしてくれた。
「、ありがとうございます、太…」

差し伸べられた手につかまった途端、ズキンと脳に響く痛みがあった。
思わず頭をおさえてしゃがみこむ。

「痛ッ。…頭打ったかも」

痛みを堪えて目を瞑った。

僕の体内に流れ込む、混沌と渦巻きつづける"悪意"が、ある一筋の明確な言葉を紡いだ。


( 結界が解け始めている。 )

( たかが衆生一人も守れぬ。なんと非力な主よ! )


諒解した瞬間、目が開ける。
混濁して広がる大海と厚い雲に覆われた空。
その中央に竹中さんの背中が見える。
―もう僕の視界は歪まない。




竹中さんに過大な夢を抱いています。 彼はきっと精霊さんにちがいない!
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